尋常性白斑について備忘録(尋常性白斑診療ガイドライン第2版2025)より
【原因】
・遺伝 家族内で発生しやすいことから、特に小児発症例では遺伝的要因が関与していると考えられる。
・環境要因 酸化ストレスなどの環境要因によりメラノサイトが障害・破壊されることが、尋常性白斑の発症と維持に関連していると考えられている。
・合併症 特に非分節型では自己免疫性甲状腺炎の合併頻度が比較的高いため、血清中の甲状腺自己抗体および甲状腺ホルモン値の測定をスクリーニング検査として行うことが推奨される。
【タイプ】
・非分節型 左右対称にみられ、慢性進行性で再発しやすいタイプ。
・分節型 片側、限局性、小児に多いタイプ。初期に急速に進行しその後安定する。
・分類不能型
【経過】
・自然治癒することは稀(まれ)である。
・いろいろな治療を長期間行っても改善しない場合も多い。
・改善しても40%以上は再発する。
・再発を防ぐために長期間の維持療法を必要とすることが多い。
・皮膚癌を含めいろいろな癌にはなりにくい。光老化もしにくい。*これは生まれつき全身のメラニン合成が不十分な眼皮膚白皮症では紫外線の影響で皮膚癌発症率が高くなるのとは逆の傾向で、尋常性白斑パラドックスと言われる。
【治療の概要】
・外用療法
・光線療法
・全身療法:内服、点滴など。
・手術療法:メラノサイト含有自家培養表皮など。
○進行期(症状が安定するまであるいは症状進行停止後1年未満):外用療法・光線療法・全身療法を単独もしくは組み合わせた治療法を検討する。
安全性と有効性を3~6カ月ごとに評価し、治療目標の再確認と、治療法の継続もしくは変更を相談する。
○6ヶ月以上の非進行期(症状に半年~1年以上変化がない):維持療法、経過観察、12歳以上なら手術も検討する。
*維持療法は再燃予防に重要で、半年以上は行うべきという意見がある。色素再生部位にタクロリムス軟膏を隔週外用すると、6カ月後の再発率が9.7%と、プラセボ群の40%に比べて有意に低下した報告がある。週に2回のIII群ステロイド外用が皮疹の再燃を抑制するというエキスパートオピニオンがある。
【各治療法について】
[外用療法]
- ステロイド外用(推奨度:顔面・頸部を除く非分節型1A、顔面・頸部の非分節型2A、分節型および分類不能型2B)
非分節型の尋常性白斑に対してストロング(III群)のステロイド外用薬を1日1回塗布することを基本とし、年齢や部位に応じて強さをベリーストロング(II群)またはミディアム(IV群)に変更する。
12歳以上では4~6カ月、12歳未満では2~3カ月の塗布を目安とし、効果が得られなければ他の治療法への変更を検討する。
皮膚萎縮を防ぐため、3カ月以内にとどめることが推奨される。
小児では、皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用を予防する目的で、間欠塗布(2週間ステロイド外用後に2週間休薬または他の外用薬を塗布など)も検討する。
妊婦では急性増悪しやすいので注意する。尋常性白斑が自然流産の危険因子であるとの疫学研究があるため妊娠維持に配慮する。低体重出生を防ぐため、ストロンゲストクラス(I群)のステロイド外用の積算量は300g以下に抑える。妊娠中および授乳中においても、NB-UVBや限局した部位のステロイド外用は安全であると報告されている。
(2)タクロリムス軟膏(推奨度1A。適応外。)維持療法には推奨度1B
ストロンゲストクラス(I群)クロベタゾール外用で効果に有意差はなかった。
再色素沈着効果のピークは6カ月程度。1日2回塗布や密封療法だとより効果が高いという報告がある。
色素沈着病変にタクロリムス軟膏を週に2回塗布する維持療法は、再色素脱失を抑制する可能性がある。病変活動性の高い尋常性白斑患者では、再色素沈着後も6カ月程度外用を継続することが考慮されうる。
1年を超えて長期観察した試験は乏しく、3~6カ月の観察期間を目安に効果判定を行うことが望ましい。
近年、カルシニューリン阻害薬外用による免疫抑制に伴う重篤な感染症や悪性リンパ腫を含む悪性腫瘍発生リスクは上昇しないと考えられている。
タクロリムス軟膏と光線療法との併用は添付文書の文言を考慮する必要がある。
*欧州の文献では、タクロリムス軟膏は成人でも小児でも病変が限定的な場合の第1選択治療であり、特に顔面、首、皮膚の薄い体の折り目(鼠径部、腋窩部など)の病変に有効とされる。最初は6か月間使用し、有効である場合は、長期治療(最長12か月間またはそれ以上)を推奨する。タクロリムス軟膏単独療法では、3か月後に患者の55.0%で25%以上の再色素沈着が、18.1%で75%以上の再色素沈着が誘発された。小児の頭頸部では、35.4%で75%以上の再色素沈着がみられた。よりよい再色素沈着のために、安全性を考慮した上でタクロリムス軟膏と光線療法の組み合わせを検討する。米国の文献では頭や首にはタクロリムス軟膏がより効果的と記載してある。
(3)活性型ビタミンD3外用薬(日光浴や光線療法と併用のうえで推奨度1B。適応外)
尋常性白斑に対して活性型ビタミンD3外用薬を単独で使用することのエビデンスレベルは低い。光線療法との併用は検討しても良いが、エキシマレーザーと活性型ビタミンD3外用との併用効果はなかったとの報告がある。
*欧州の文献では活性型ビタミンD3外用薬についての記載はない。米国の文献では、活性型ビタミンD3外用薬単独では無効、ステロイド外用薬と併用では効果があると記載されている。
(4) その他外用薬 JAK阻害内服・外用、PDE4阻害剤、ラパマイシン外用薬(記載のみ。適応外)
デルゴシチニブ外用(コレクチム軟膏)は頸部病変部に有効であった症例報告はあるが,有効性と安全性に関しては今後の症例の集積が必要とされる。
ルキソリチニブクリーム( Opzelura™)は米国で12歳以上に認可されているが、日本ではまだ(2025年時点)。*2022年にマルホ株式会社とライセンス契約はされている。
JAK阻害薬の内服が有効であったとの症例報告はあり、治験も行われている。
*カルプロニウム塩化物水和物は保険適応だが記載はない。
[光線療法]
- ナローバンドUVB(推奨度1A)
- エキシマライト/レーザー(限局した病変に推奨度1A)
週1~2回、累積照射回数200回までを推奨する(200回を超えると日光角化症の発症率が上昇するとの報告があるため)。NB-UVBの最大照射量1500 mJ/cm²、エキシマライトの最大照射量750 mJ/cm²。
光線療法は10歳未満には推奨しない。長期的な安全性に関するデータがほぼなく、一人で装置内に耐えうる年齢を考慮して設定されているため、施行する場合は保護者の同意を得る。
光線療法を半年~1年照射(週2回半年で約50回に相当)しても色素再生が乏しいときは、中止を検討する。
進行期非分節型には、症状の安定化(病変が拡大しないこと)に対する第一選択療法としてNB-UVBを推奨する。
ステロイド外用やタクロリムス軟膏と紫外線療法の併用療法は、単独療法より高い有効性を示す。
活性型ビタミンD3外用剤と紫外線の併用療法は、有効性があるという報告とないという報告がある。
*欧州の文献では、保護者等の支援があれば3歳でも光線療法が行われたと報告されている。小児の場合、保護者等の支援があれば、3歳でも光線療法が行われたことが報告されている。3か月後に改善が見られない場合、または6か月後に結果が満足のいくものでない場合は、光線療法を中止することを専門家は推奨している。エキシマレーザー/ランプ治療は、NB-UVBと同等かそれよりも優れている。治療所要時間が短いため、患者のコンプライアンスが向上する
*エキシマレーザーは効果は高いが非常に高価な機械なので、当院にはエキシマライトがあります。
*ビタミン C1,000 mg/日内服が尋常性白斑の色素再生に有用な可能性がある